幕末の慶応3年11月15日(1867年12月10日)、坂本龍馬と中岡慎太郎が京都河原町近江屋井口新助邸において暗殺されました。この近江屋事件は、京都見廻組の仕業であるとされています。しかし、さまざまな龍馬本が出版され、同時にさまざま説が生まれています。いったい事件の真相とは?そこでおすすめ本10点を紹介します。これらを読めば、おのずと真相が見えてきますよ。
龍馬暗殺から155年、その真相とは?おすすめ本10作から紐解く
当時、坂本龍馬の知名度はあまり高くはありませんでした。だからむしろ中岡慎太郎が暗殺犯の標的であり、龍馬は単なる巻き添えではなかったのかという説まであります。筆者は高知出身ですし、坂本龍馬に興味を持ち、文献を読み漁り、史跡を訪ね、坂本家墓所も訪れています。
読めばよむほど坂本龍馬はおもしろいです。それが素直な感想ですが―ー。
龍馬暗殺のさまざまな犯行説、いったい何が真実なのか?
まず主な犯行説を列記しておきます。
■京都見廻組実行犯説
大正時代になって元見廻組隊士だった今井信郎、渡辺篤の口述で、佐々木只三郎らが実行犯であると証言しています。この見廻組実行犯説がいわば通説となっていますが、色々な異説も唱えられています。
■新選組犯行説
龍馬暗殺当時の現場に残された鞘などの物証や、3日後に暗殺された伊東甲子太郎の同志らの証言から新選組の原田左之助によるものと、当初は信じられていました。しかし現在では、新選組犯行説を支持する研究者はほとんどいません。
■薩摩藩陰謀説
大政奉還以降、龍馬は幕府に対する態度を軟化させ、徳川慶喜を含めた諸侯会議による新政府の設立に傾いていたともいわれています。この頃は西郷隆盛、大久保利通らは武力倒幕を目指していました。だから龍馬の動きを看過できなくなり、故意に幕府側に龍馬の所在を漏らしたとする説があり、この陰謀説が生まれています。この説には熱狂的な支持者がいるものの、歴史学界ではあまり相手にされていないのが実情でしょう。
■紀州藩説
この説については、いろは丸事件が関係しています。紀州藩所有の蒸気船「明光丸」と、海援隊が運航する「いろは丸」が衝突し、いろは丸は宇和島沖に沈みました(慶応3年4月23日)。紀州藩と龍馬率いる海援隊は、賠償をめぐって激しく対立。交渉を続けていましたが、分が悪くなった紀州藩が龍馬を暗殺したという説。最終的には龍馬暗殺の直後、紀州藩は7万両もの賠償に応じています。
歴史作家桐野作人氏が高知県立龍馬記念館主催のシンポジウムで龍馬暗殺の謎に迫った!
龍馬暗殺から150年を記念して行われた、県立坂本龍馬記念館主催のシンポジウム。このシンポジウムで、歴史作家、桐野作人(きりの・さくじん)氏が独自の切り口から「謎」に迫った講演を行いました。この講演内容について触れておきます。
龍馬暗殺の4つの説について語っています。
(1)土佐藩説=龍馬の活躍を快く思わない藩士という説をはじめ、大政奉還の功績で名をあげた土佐藩家老、後藤象二郎が、大政奉還が龍馬のアイデアだったことを隠すために殺害した-などの説がある。
(2)薩摩藩説=武力で徳川幕府を討ちたかった薩摩藩としては、龍馬による大政奉還という平和的手段は、徳川の勢力を残す不本意なものであり、「龍馬は裏切り者」とみなして暗殺に至ったとする説。「西郷隆盛が黒幕」という説まである。
(3)紀州藩説=龍馬率いる海援隊の「いろは丸」と紀州藩の船が衝突した事故で、龍馬は沈没したいろは丸の賠償金を紀州藩に支払わせた。「御三家が下級武士に負け、恥をかかされた」とする紀州藩が、これを恨んで犯行に至ったという説。
(4)幕府説=実行犯そのものが京都の警備にあたっていた京都見廻組か新選組という説が根強いことから、この説が有力とされる。特に京都見廻組だった今井信郎や渡辺篤が証言や記録で「自分たちが襲った」としている。ただ暗殺に参加した人数など共通点があるものの、今井が後に証言を修正したり、現場の状況と矛盾する点などもある。信憑性について賛否両論があるのも事実。現場に新選組隊士の遺留品があったとして新選組も疑われているが、こちらも決定的証拠ではないという。
大政奉還に反対していたのは誰だったのか。答えが見えてくる
寺田屋事件の翌年の慶応3年10月、大政奉還が成立。この1か月後に坂本龍馬は近江屋で殺害されました。
暗殺の政治背景として重要なポイントとなる“大政奉還”に反対していたのは誰だったのか。
桐野氏はこう言っています。
「当時、大政奉還に反対していたのは、会津藩や桑名藩だったことを考えなければいけない」とし、会津藩といえば、龍馬暗殺の実行犯として最有力視される京都見廻組や新選組を支配下に置き、京都の治安を担当していた。尊王攘夷派の弾圧を行っており、脱藩志士らの恨みを買っていたとされ、桑名藩も京都の治安担当だった。
大政奉還が成立しないように、会津藩も桑名藩も武力によって公家を脅そうとするなど、邪魔をしようとしている。しかし、中止させることができず、大政奉還がいざ成立すると、会津藩が『一同驚愕し、これまでの努力が水泡に帰した』と嘆いたとする史料もあると言います。
会津、桑名藩の怒りの矛先は、薩摩藩に向けられていた。しかし、最大の政敵は薩摩藩だけではなく、大政奉還建白を進めた土佐藩などもターゲットだったという〉
「京都見廻組がやったのは間違いない。では誰が命令をしたのか。薩摩でないことは確かです。どこなのかは想像がつくでしょう」
おすすめの龍馬本10点、読めば読むほどおもしろい!
「グラバーの暗号 龍馬暗殺の真相」出口臥龍著、幻冬舎
誰が龍馬を殺したのか…グラバー(武器商人)が残したメッセージとは…。龍馬暗殺の黒幕は大英帝国だった…! ?
本書は日本史だけでなく、世界史、世界情勢から、龍馬暗殺事件の真相を読み解き、従来の暗殺説に一石を投じている。暗殺事件の首謀者は、イギリスの武器商人たちで、それを暗示しているのがトーマス・グラバーの残したメッセージだということです。グラバーは国産ビールの育ての親。つまりは、キリンビールのラベルにヒントが。なぜか麒麟が描かれています。馬は龍馬の象徴。そこに秘密が…。
単なる史料分析に終わらず、ミステリーエンターテインメント小説に仕上げられた本書は、龍馬ファンでなくとも必読の一冊!
「あやつられた龍馬」加治将一著、祥伝社
龍馬をあやつった陰の「力」とは、そしてなぜ彼は暗殺されたのか!?
- なぜ下級武士の龍馬が「薩長同盟」を仲介できたのか
- 謎の武器商人、トーマス・グラバーとは
- グラバー邸の「隠し部屋」には龍馬がいた
- 英国公使館を放火した伊藤博文が「英国密航」できた理由
- 「亀山社中」は武器輸入のダミー会社
- 日本人初のフリーメーソン・メンバーと薩摩藩士・五代友厚(ごだいともあつ)の密会
- 龍馬が「最後の手紙」に込めた暗号と「龍馬暗殺」の真犯人
以上が本書の内容です。なかなか興味深く、説得力があります。
「龍馬暗殺」桐野作人著、吉川弘文館
薩長周旋の立役者坂本龍馬が殺害された近江屋事件。史料も多く、事件のあらましは判明しているのに、なぜ謎多き事件として惹きつけられるのか。襲撃者の供述を再検討し、薩長土や会桑勢力の動向から、慶応三年の京都政局の対立軸を明らかにし、事件の真因を究明。事件後の政情や、衰えない〈薩摩〉説の起源と誤謬も解き明かし、暗殺の深層に迫る。
「坂本龍馬 隠された肖像」山田一郎著、新潮社
様々な伝記や小説において、龍馬の幼少年時代は、泣き虫の鼻たれ、夜ばれたれ、落ちこぼれ…と救いようのない愚童として描かれることが多いが、著者はまずそのことに悲憤を感じてきたことを明かし、そのような「龍馬愚童説」に異を唱えています。
また、龍馬が実の母親を亡くした後、3歳違いの姉・乙女が母親代わりとなり、あらゆる教育を施し龍馬を立派な青年に育てあげたという「神話」にも疑問を呈し、これまで表に出ることのなかった、龍馬の継母・伊与の存在に注目し、彼女が少年時代の龍馬に与えた影響について、興味深くかつ説得力のある新説を展開する。なお、それまでその名すら明らかになっていなかった龍馬の継母・北代伊与の存在を初めて世に出したのはこの作品です。本当の龍馬を知りたい人、必読の書。
「写真集 坂本龍馬の生涯」土居晴夫・前田秀徳・一坂太郎著、新人物往来社
写真集ですが、この一冊で坂本龍馬の生涯がわかる。龍馬誕生から龍馬の死にいたるまで、写真を網羅。貴重な資料。
「龍馬暗殺 捜査報告書」小林久三著、光風社出版
大政奉還が実施された前後には、龍馬はほぼ完全に四面楚歌の状態に陥っていた。新撰組、見廻組、薩摩藩、土佐藩、紀州藩、それぞれが龍馬を目の上のたんこぶにしており、暗殺の思惑は広がっていた。それぞれを検証しながら、実際に龍馬暗殺の実行者からその本当の黒幕を暴き出す。各派の当時の動向を含め、複雑に絡んだ時代背景からそれぞれの内部事情など全体像が分かりやすくまとめられている。
「龍馬の手紙」宮地佐一郎著、講談社学術文庫
動乱の幕末、激しく逆巻き流動する時代の潮流の中、志高く歴史の舵をきり、駆け抜けていった坂本龍馬。自由な発想、並外れた機智、豁達な行動力、奔放な活躍。壮大な国家構想から姉や姪あての心暖まる私信まで、時に茶目気を見せ、喜びや苦悩などの真情も吐露する、計139通の手紙を網羅。関係文書や詠草も収録。幕末の異才、龍馬の青春の軌跡が鮮やかに浮かび上がる。
「坂本龍馬を斬った男」今井幸彦著、新人物文庫
この本は今井信朗の孫にあたる今井幸彦著。龍馬を斬った真犯人と言われている今井信朗が書き残したという供述書となると、これこそが真実かもしれません。今井は捕らわれの身となり龍馬殺害の告白をするが、西郷の寛大な許しで三年の刑で放免されました。今井はやがて榛原郡の農会長となり農業、教育、村政、学校建設に尽力し、村長としても地域に尽くしました。
「竜馬がゆく」司馬遼太郎著、文春文庫
総発行部数2500万部超! 坂本竜馬の奇蹟の生涯を壮大なスケールで描く、司馬文学の金字塔、永遠のベストセラー、全八冊。エンターテインメント性が高く、読み応えがある。ただし、作者はあくまで「創作」だとし、あえて「竜馬」としている。
「維新風雲回顧録」田中光顕著、河出文庫
吉田東洋暗殺犯のひとり那須信吾の甥。土佐勤皇党に加盟の後、脱藩、長州に依り、中岡慎太郎の陸援隊を引き継ぐ。国事に奔走し、高野山義挙に参加、維新の舞台裏をつぶさに語った一級史料。
他にも、個人的に好きな本。
「天誅組」大岡昇平著、講談社文芸文庫
「土佐勤王党風雲録」村田英一著、文芸社
「龍馬のすべて」平尾道雄著、高知新聞社
「龍馬の謎 徹底検証」加来耕三著、講談社文庫
まとめ
坂本龍馬は実におもしろい。知れば知るほど病みつきになる。あくまで個人的なおすすめ本ですので、ご理解ください。
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