みなさん、ハサミムシをご存じでしょうか。
そう、公園の石などをひっくり返すと、黒い小さな生き物がしっぽのハサミを広げて威嚇しているのを見たことがあるでしょう。それですね。
筆者は田舎育ちなので、庭の石の下で何度も見た記憶があります。
悲しすぎるハサミムシのメスの一生とは?
ハサミムシは「生きた化石」と呼ばれるほど原始的な昆虫の代表です。その名の通り、尾の先についた大きなハサミが特徴的です。
さて、そのハサミムシですが、どんな一生を送るのか、知らない人も多いと思います。とくにメスは、なんとも悲しい結末を迎え、一生を終えるのです。
いや、悲しいというより、使命というか、尊厳というか、子どもを守る母の壮絶な生きざまというか。表現はいろいろですが、筆者は「ハサミムシのメスってすごい!」と思ってしまいました。それを今からご紹介しましょう。
(稲垣栄洋著「生き物の死にざま」(草思社文庫)を参考にしています。)
ハサミムシとは?
和名:ハサミムシ
学名:Dermaptera
階級:ハサミムシ目
生息範囲:日本全土
活動時期:4月~10月
体長:11mm~30mm
寿命:約1年
特徴:細長い胴体で、尾部にハサミをもつ
ハサミムシは日本に25種類、有害ではなく無害な虫
ハサミムシは日本では25種類が確認されているようですね。
まあ、さすがに見た目は美しいは言えず、気持ち悪い昆虫と言えましょう。毒々しいハサミから「有毒」であるなどと言われますが、無害な虫です。もちろん毒もありません。
肉食性なので小さい虫を食べてくれます。したがってむしろ益虫と考えられていますね。
ハサミムシ、見た目は気持ち悪い
まず虫の子育ては、母親が卵を守るものと父親が卵を守るものとがいるわけですが、サソリやクモは母親が卵を守るし、タガメは父親が卵を守るのです。
ハサミムシはと言うと、母親が卵を守ります。
交尾後、ハサミムシの母親が卵を産むとき(成虫で冬を越し、冬の終わりから春の初めに卵を産む)、父親はすでに行方がわからなくなっていますから、子どもは父親の顔を知りません。これは自然界ではごく当たり前のことでしょう。
メスは、卵がかえるまで丹念に世話をします。卵にカビが生えないように一つひとつ順番にていねいになめたり、空気に当てるために卵の位置を動かしたりと、丹念に世話をしていくのです。
その間、メスは卵のそばを離れることはありません。つまり、餌を獲ることもなく飲まず食わずで、ずっと卵の世話をし続けるのです。
これだけでもすごいですね。
ハサミムシの卵の期間は、昆虫の中でも特に長く40日以上も。その間、片時も卵のそばを離れません。
そして、ついに孵化。
孵化した子どもたちは、母親のそばによりそっています。小さな幼虫は獲物を摂ることができません。幼虫たちは、空腹に耐えながら、母親の身体に集まっていくのですね。
ハサミムシの母親は子どもたちに自ら身体を捧げる
このあと、どうなると思いますか。
母親は柔らかいお腹を差し出すのです。
子どもたちはなんと、母親の身体を食べ始めるのです。母親は逃げるそぶりもせず、むしろ子どもたちを慈しむように、まったく動きません。
子どもたちは、空腹を満たすために、母親の身体を貪り食います。自分の母親だと認識しているとは思いますが、子どもたちは生きなければなりません。
このとき、母親は何を思っているのでしょう。腹部を噛まれると、きっと痛いでしょう。哀しいでしょう。
やがて意識が遠のいていくことでしょう……。
子どもたちが母親を食べ尽くした頃、季節は春を迎える。そして、立派に成長した子どもたちは石の下から這い出て、それぞれの道へと進んでいくのである。
石の下には母親の亡骸を残して。
稲垣栄洋著「生き物の死にざま」(草思社文庫)
興味ある方は、ミノムシの生涯も読んでくださいね。凄いですよ!
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