最近、都会では「ミノムシ」(オオミノガ)の姿を見かけなくなりました。これは外来種のヤドリバエによる寄生によって個体が激減しているからです。
そもそもミノムシの正体は、ミノガという蛾の幼虫です。蓑の中でさなぎになり、成虫になって外に出て、パートナーを求めて飛び立ちます。
しかし、巣の外へ出て行くのは、オスだけ。メスはその後も巣の中に留まって生涯の大半を過ごし、卵を産んで静かに生涯を閉じます。
う~ん。これって果たして幸せなのか。そんなミノムシの生態を探ってみました。
高知県梼原の神社で見つけたミノムシ。すごい場所に巣を作っています。
ミノムシは蛾の一種。ただ、飛べるのはオスのみ
ミノムシは日本に40種類ほどいるミノガと呼ばれる蛾の一種。オスは蛾になりますが、メスは翅(はね)もなく、ウジ虫のような姿。それは卵を産むのに適しているからでしょうか。
交尾も変わっています。
メスのいる蓑を見つけたオスは、蓑の中に腹部を入れ、メスと交尾をします。互いに顔を見ることもなく、これで終わりです。しかも、役目を果たしたオスは、死んでしまいます。メスは蓑の中に卵を産み、そして幼虫が生まれる頃には自ら蓑の外へ出て、息絶えます。これがメスの最後です。
しかし、それでも、育ったミノムシは蓑から出て、糸を垂らしてどこかへ飛んでいき、新たな人生を歩んでいくのです。
ミノムシは別名を「鬼の子」という。
ミノムシは鬼に捨てられた子どもで、粗末な蓑を着せられているというのだ。そして、秋風が吹く頃になったら迎えに来るから、それまで待っているようにと鬼に言われたのだという。そのため、秋風が吹くとミノムシは、「父よ、父よ」と父親を慕ってはかなげに鳴くというのだ。(中略)
ミノムシは枯れ葉や枯れ枝で巣を作り、その中にこもって暮らしている。このようすが、粗末な蓑を着ているように見えることから、「蓑虫」と名付けられた。
参考文献:稲垣栄洋著「生き物の死にざま」(草思社文庫)
メスは生涯を蓑の中で過ごし、卵を産むと役目を終える
出典:https://kids.rurubu.jp/article/79409/
ミノムシの存在はおそらく誰でも知っていますが、どんな昆虫であるのか、どんな一生を過ごすのかを知っている人は少ないのではないでしょうか。
要は、蛾の幼虫だということですね。
ただし、それはオスだけで、メスは成虫になってもオスとはまったく違う姿です。しかも、オスが飛び回るのに対し、蓑の外に出ることがほとんどありません。夕方になると、蓑から頭を少しだけ出し、そこからフェロモンといわれる匂いを放出してオスを誘うのです。その匂いを嗅ぎ取ったオスは、何百メートルも離れたところからでも飛んで来てメスと交尾をするのです。
筆者の田舎は高知県土佐清水市です。今は大阪在住ですが、残念ながら大阪ではミノムシをまったく見かけなくなりました。高知に帰省したとき、たまたま梼原の神社で蓑虫を発見。写真に収めました。
ふとこの中にメスがいるのだな、と思いました。まるで田舎から一歩も外に出たことがなく、鬼籍に入ってしまった親戚の叔母の姿が脳裏にちらつきました。いや、それは筆者もよく似たものだけど……。
ミノムシは30年か40年前から姿が減ったと言われています。それでも、田舎にいけば、まだ生息していますね。
日本列島では、本州、四国、九州、対馬、屋久島、沖縄本島、宮古島、石垣島、西表島などに分布。外来種のヤドリバエによる寄生により生息個体が激減しており、各自治体のレッドリストで絶滅危惧種に選定されるようになってきています。
ミノムシの寿命は、おおよそ1年
ミノムシの寿命は、およそ1年だと言われています。
冬は、枝にぶら下がって冬眠。春になると、さなぎになり、やがて羽化して成虫になると、交尾をして、オスは死亡。メスも蓑の中に産卵した後、役目を終えます。初夏の頃に卵が孵化すると、幼虫たちは、蓑の外へと出て行き、自分で蓑を作って生きていきます。
蛾になるのはオスだけ
私の人生もまた似たようなものだ。私も小さな町でほとんどの日を過ごし、小さな島国からほとんど出ることはない。たまに海外旅行に出かけるからといって、世界の何を知っているわけでもない。限られた人たちと会い、自宅と職場を往復して毎日を暮らしている。私の人生も、ミノムシのメスと何ら変わらないのではないか。
小さな巣の中にも幸せはある。
ミノムシの、メスは、巣の中に生まれ、生涯の大半を巣の中で過ごし、巣の中で一生を終える。それでよいではないか。
『生き物の死にざま』(草思社文庫)で、この作家もこう書き綴っています。
昆虫の一生は、本当に子孫を残すためにうまく仕組みが作られていると思います。ミノムシもまた不思議な一生と言えます。
ある意味で、それは人間の縮図のような気さえします。
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